ダニーボーイは、私が好きな歌の一つだ。むかし、題名は忘れてしまったのだけれど、ある映画の中で、お葬式に、ダニボーイを、人々が歌うシーンがあった。それが心にしみた。
 Oh, Danny Boy, the pipes, the pipes are calling で始まるこの歌は、なかなか難しい歌詞の歌だ。調べてみると、自分のもとを去った息子のことを、思い続ける親を歌ったものだという。諸説あるらしいのだが、親はたぶん母親。息子は戦地に行く。つまり、一種の反戦歌だそうである。
 反戦歌といえば、私も、大昔にいっぱい歌った。正確に言えば、歌わされた。
 私が大学生だった頃は、学生運動が盛んだった。入学した年に、授業料値上げ反対の運動がおきた。国立大学の授業料が、年6000円から9000円に値上げされるのだという。国立大学の授業料は、むかしは安かったのだ。それに、値上げは来年入学してくる学生から適用され、自分たちは今のままでいい。それなのに、反対運動が起きた。
 私は政治に対する意識が低くて、いわゆるノンポリの学生だった。今でもそうだけれど。
 そのうちに、「60年安保」の闘争がおきた。日米安全保障条約改定反対の闘争である。1960年には最高潮に達して、連日デモ行進が行われた。そのころ、私は大学院の学生、いわゆる院生だった。
 研究室の人がみんな、デモに行った。しかたなく、私も行った。学年がちょっと上の先輩たちがリーダーだった。その人たちの音頭で、反戦歌を歌った。シュプレヒコールもやった。
 あの時リーダーで、「米帝を倒せ」なんて叫んでいた人たちは、それから数年後、世の中が落ち着いた後に、アメリカに留学した。今度は帰国すると、「アメリカの研究制度は素晴らしい」なんて声高に言いだした。
 あれ以来、大きな声で人をアジる人は信用しないことにした。
 ダニーボーイから、話が脱線したみたいだ。
 天の声「いつもそうだ」