高い建物ができると、たいてい展望台が設置される。人は、入場料を払って、のぼりにいく。高い建物にのぼりたがる習性があるらしい。
 高い建物といえば、昔はニューヨークの摩天楼だった。その代表はエンパイア・ステート・ビルだ。キングコングの映画の舞台にもなった。
 私は、昔、一年間、ニューヨークに住んだことがある。その時には、エンパイア・ステート・ビルに何度かのぼった。お客さんが来ると、案内したからだ。その時、誰かから、ニューヨーク在住の日本人には「100回クラブ」というのがあると聞いた。誰かが来るとエンパイア・ステート・ビルに案内して、その回数がついに100回を越えると、このクラブに入れるのだそうだ。
 日本人はこのビルが大好きだったようだ。そのころ、日本には、高いビルがなかったからかもしれない。法律で、高さが30メートルぐらいに制限されていたので、日本のビルは、みんな8階か9階どまりだった。
 日本にも高いビルができだしたのは、前回のオリンピックのころからだろう。ホテル・ニューオータニの建物が、10階以上もあって、目新しく感じたのを覚えている。やがて、霞が関ビルができ、池袋のサンシャイン60ができ、新宿の東京都庁ができた。今は、もっと高い建物が横浜や大阪にある。さらに高い建物をつくる計画もあるらしい。
 ビルではなくて、いわゆるタワーにも、高いものができた。東京タワーをはじめとして、日本全国にいろいろなタワーがある。東京スカイツリーがいちばん高い。私は、東京タワーにも、スカイツリーにも、のぼったことはない。
 でも、国際学会が、カナダのトロントであった時に、そこのタワーにのぼった。当時世界一の高さだった。そのタワーの展望台には、私と同じように学会をサボってきている日本人が、何人もいた。
 みんな、高いところが好きなんだなあ。天に近いからかなあ。