「ポムポム川の辺」に入居していると、お金がかかる。私たちの年金では全然足りない。つまり持っている貯金をどんどん食いつぶしていくことになる。
我が家の家計は、以前はかみさんが管理していた。全部かみさんに任せっぱなしだった。しかし、かみさんの物忘れがひどくなったので、今は私がやるしかない。
かみさんは毎日「貯金はいつまでもつか、いつ無くなるか」と私に訊く。一日に数回訊くこともある。私は「しばらくは大丈夫さ」と答えたり、「先のことはわからない」と答えたりしている。
実際、私にはわからない。ずうっと死ぬまでこの老人ホームにいるとしても、いつ死ぬかがわからない。
私は85歳。男性85歳の平均余命は6.45歳だそうだ。かみさんは80歳。80歳の女性の平均余命は12.01年だという。
しかし平均余命がこうだからといって、個々の人間がいつまで生きるかはわからない。
毎年の赤字と預金の額から、何年ぐらいは大丈夫だろうと一応計算は出来る。もちろんインフレが起こらないとしての話である。
私の平均余命ぐらいの間は大丈夫だろうというのが私の計算なのだ。かみさんの平均余命まではどうかなあ。
ハムレットの有名なセリフは、「生きるか、死ぬか、それが問題だ」である。
老人ホームにもしもハムレットがいたら、こういうだろう。「いつまで生きるのか、いつ死ぬのか、それが問題だ」