コラーゲン、ヒドロキシプロリン、オキシゲナーゼ、質量分析計・・・私に与えられた研究テーマは、「コラーゲン中のヒドロキシプロリンの合成にオキシゲナーゼが関与しているのではないか? 確認せよ」であった。言い換えると、「重酸素をトレーサーにして、ヒドロキシプロリンの合成の時に、分子状酸素から酸素原子が水酸基に取り込まれるかどうか、実験せよ」ということだった。
 それ以上の実験の指示・指導はなくて、私に丸投げ状態! 私は助手という教員になったとは言え、中身は研究歴が経った2年しかない青二才だ。頭を抱えてしまった。
 とにかく、何とかして期待に応えるしかない。まずは勉強だ。コラーゲンのコの字も知らなかった私だが、コラーゲンの勉強を始めた。野田春彦先生の総説を読んだが、ちんぷんかんぷん。純粋なコラーゲンを調製することはとても難しそう。でも、別にコラーゲンを純粋に取り出す必要はなくて、ヒドロキシプロリンを単離できれば良い。それには練習が必要だったけれど。
 小沢助教授が、ニワトリの受精卵を重酸素を含む空気の中で孵化させて、ヒドロキシプロリンへの取り込みを調べたらどうかというアイディアをくださった。それから、私の「めんどり」生活が始まった。受精卵を買って、ふ卵器に入れて孵化を試みる。めんどりは、卵を孵化させるためには、一日に2回卵をひっくり返す。そうしないと、うまくひなが孵らないというのだ。私は日曜日も、卵をひっくり返すために、研究室に通った。