昔のことだが、ある朝、歯磨きをしているときに、ふと思った。
ハミガキには、いろいろな成分が入っている。すっきりするためのメントールや、汚れを取るための界面活性剤、研磨剤、虫歯を防ぐための成分などが配合されていると思う。
だが、歯をみがいた直後に、口をゆすぐ。ゆすいでしまえば、ハミガキの大部分の成分は、洗い流されてしまう。研磨剤などはいいとしても、虫歯を防ぐ成分などは、せっかく配合されていても機能を発揮する時間がなさそうに思える。
そこで、配合成分が長く口の中にとどまって、機能を十分に発揮できるような工夫はないのかと考えた。
歯のいちばん表面はエナメル質でおおわれている。エナメル質の主成分は、ハイドロキシアパタイトという、カルシウムとリン酸からできた化合物である。
ある種のタンパク質は、ハイドロキシアパタイトに強い親和性をもっている。つまり、よくくっつく。そこで、必要な成分を、あらかじめ「ハイドロキシアパタイトに強い親和性を持つタンパク質」に結合させておけば、歯磨きの際に、歯にくっつき、ゆすいでも流されないだろう。
デキストラナーゼという酵素を入れたハミガキがあった。この酵素は、細菌が作るねばねばした物質を分解する酵素で、歯垢を防ぐ効果があるとされていた。でも、そのままでは、やっぱりゆすげば洗い流されてしまうだろう。
私にとっては、酵素は他のハミガキ成分よりもファミリアだ。そこで、デキストラナーゼを「ハイドキシアパタイト結合タンパク質」につないでおけばいいと考えた。
私はこのアイディアに夢中になった。若干の予備実験をして、歯学部の先生のところにもっていった。
その結果はどうなったか・・・全然覚えていない。ダメだったのは確かだが、なぜダメなのか、おぼえていない。よい考えだと思ったんだけれどなあ。
天の声「下手の考え休むに似たり」