子供のころ、「手袋をさかさまに読んでごらん」と友達に問いかける遊びがあった。「てぶくろ」をさかさまに読むと「ろくぶて」となる。すかさず、相手を6回打った。さらに、「手袋巡査」をさかさまに読むというのもあった。「さんじゅろくぶて」になって、36回も打てた。
 歌の歌詞を、さかさまにして歌う遊びもあった。全体を逆さにするのは難しいから、少しずつさかさまにする。「出た出た月が」を「たでたでがきつ」と歌う。「もしもし亀よ亀さんよ」は「しもしもめかよめかんさよ」と歌った。他愛のない遊びだ。
 上(左)から読んでも、下(右)から読んでも、同じになる文がある。「たけやぶやけた」とか、「しんぶんし」などである。これは回文と呼ばれている。
 私が、回文という言葉を知ったのは、比較的最近である。分子生物学で、回文、またはパリンドロームという言葉が出てきてはじめて知った。DNAの特殊な塩基配列に対してつかう言葉だ。
 学生さんに講義をしているときに、回文の例をあげようと思ったら、とっさに出てこなくて困った。あとで考えたら、「やおや」とか、「たうえうた」とか・・・
 ヒトの名前だってある。たとえば、「こいけけいこ」・・・ほかにもあるとおもうけれど、出てこない。
 さかさまに読むと、違う意味になる言葉もある。たとえば、「薬」を、逆から読むと「リスク」になる。皮肉だ。「予想」を、逆に読むと「うそよ」になる。これも面白い。
 ここまで書いてきて、英語の回文を思い出した。高校の英語の時間に教わったのだろう。
  Able was I ere I saw Elba
 エルバ島に流された、ナポレオンのことを言っている。
 考えてみると、中学校や高校では、いろいろなことを教えてもらった。みんな、わすれてしまったけれど。