アメリカのドラマを見ていると、「あの人は”funny”だ」というのは、ほめ言葉であることがわかった。とくに、男性は、笑える人、面白い人、冗談のうまい人がもてるらしい。
スピーチも、アメリカ人は、まずジョークを言って始める。日本人とはえらい違いである。日本人のスピーチは、まずお詫びの言葉から始まるのだそうだ。
そこで、ある親日家のアメリカ人は、スピーチをこういってはじめたそうである。「スピーチを、冗談なしで始めることをお詫びします」
ジョークとお詫びを一気にすませてしまった。おまけに、その人の名は、ジョーダンだった。
この話は、実話なのか、誰かがつくったジョークなのか、私は知らない。
たしかに、冗談のうまい人、ユーモアのある人は、好感が持てる。でも、初対面で、冗談ばかり言われても困ることがある。冗談かまじめな話なのか、わからないからだ。
むかし、研究の相談に来た若いお医者さんがそうだった。二人で来たのだが、会うなり、二人とも冗談を連発した。日本の医学教育は、まず冗談をいうことを教えるのかと思った。
大昔、東京で国際生化学会が開かれ、その懇親会で、当時学術会議の会長だった朝永振一郎先生があいさつされた。先生は「日本の名物は地震です。歓迎に小さな地震を起こしてあげたいが、それはできません」といって、皆を笑わせた。
数年前に、なにかのお祝いの会を、研究室の卒業生たちが、私のために開いてくれた。パーティーの最中に、ちょっとした地震が起きて、びっくりした。
私は最後に挨拶をしたのだが、その時、あの朝永先生の話をして、「今日の会の幹事さんは、地震までおこしてくれて、ご苦労さま」で、締めくくればよかったのに、とっさに思い出せず、できなかった。残念。
冗談を言う話が、最後は、冗談を言いそびれた話になってしまった。