ミミズとカイチュウのキューティクルのコラーゲンはとても変わっている。ミミズのコラーゲンは、ヒドロキシプロリンが多く、プロリンが少ない。カイチュウのコラーゲンは、逆に、ヒドロキシプロリンが少なく、プロリンが多い。
 そこで、いろいろな疑問が湧いてくる。
 まず、この二つの動物で、キューティクル以外の部分にコラーゲンがあれば、それはどんな性質のものだろうか?私たちは、ミミズとカイチュウのキューティクルを取り除き、胴体部分のコラーゲンを調べてみた。結果は、キューティクルのものとは違う、つまり普通のコラーゲンに近いものがあることがわかった。
 この研究は、後のコラーゲンの多型性、多様性の発見の先駆けになるものだった。もっとも、私たちは、このことに気が付かず、後でよその人に指摘されて、「ああ、けっこう大事なことだったんだ」と思ったりした。
 次に、これらのコラーゲンの生合成の問題である。コラーゲンのヒドロキシプロリンは、ペプチド鎖に組み込まれたプロリンが、酵素で水酸化されてできるのだが、ミミズのヒドロキシプロリンのあの多さを見ると、直接ヒドロキシプロリンが取り込まれるかもしれないと思って実験した。そんなことなかった。
 プロリンが、水酸化されるときには空気の酸素が必要である。これは私たちが大昔に見つけたことである。ところで、カイチュウは酸素の少ない、腸の中に住んでいる。では、どうしているのか。調べてみると、やはり酸素は必要で、酸素濃度が低いところでも働ける酵素を持っていることがわかった。
 コラーゲンのヒドロキシプロリンは、どんな役割を持っているのか。ヒドロキシプロリンの極端に少ないカイチュウのコラーゲン、極端に多いミミズのコラーゲンを材料に使うとこの謎が解けるかも知れない。
ジョンズ・ホプキンス大学のハリントン博士はこの研究に取り組んだ。とても面白い研究だったが、残念ながら、その結論はあとで間違っていることがわかった。