コラーゲンはいろいろな動物の体に存在している。動物のコラーゲンとそれが住んでいる環境の間には面白い関係が見つかっている。
コラーゲンは体の中では主に線維の状態で存在している。コラーゲン線維を冷たい希酢酸につけると一部が溶け出してくる。コラーゲンの分子が分散された状態である。
このコラーゲンの溶液を加熱していくと、ある温度でらせん構造がこわれて、どろどろしていた液がサラサラになる。この温度が変性温度と呼ばれている。
線維状のコラーゲンも加熱していくと、ある温度で収縮する。この線維の収縮温度は、溶液の変性温度よりおよそ20℃高い。
ヒトやネズミやウシのコラーゲンの変性温度は、約40℃である。これらの動物は、いわゆる温血動物なので、住んでいる環境によらず体温は一定で、約37℃である。それゆえコラーゲンの存在する環境も約37℃である。つまり、変性温度の方が、環境の温度よりも少し高い。
魚は変温動物で、体温は環境の温度とほぼ同じである。マグロは暖かい海にすむ魚で、環境の温度の上限はおよそ25℃。マグロのコラーゲンの変性温度は約27℃。タラは冷たい海に住んでいて、環境温度の上限は約15℃。タラのコラーゲンの変性温度は約16℃だそうである。
さらに、南極の海に住んでいるアイスフィッシュという魚のコラーゲンの変性温度は5.5℃。南極の海の温度はマイナス1℃からプラス3℃ぐらいだそうだ。
このように、動物のコラーゲンの変性温度は、環境の温度の上限より少し高めに設定されている。体の中のコラーゲンは、時にはこわす必要があるので、むやみに頑丈にはつくられてはいないらしい。自然の知恵のすばらしさである。
体の中のコラーゲンは、ほとんどは線維の状態なので、変性する温度は、溶液の状態よりも20℃ぐらい高い。だから、たとえ新型コロナウイルスに感染して40℃の熱が出ても、体の中のコラーゲンが、一度に変性してしまう心配はない。