私はネコよりイヌの方が好きだ。しかし自分で飼ったのはたった1回だけである。
子供のころ、父が「秩父犬だ」といって子イヌをもらってきた。秩父犬という種類が本当にあるのかどうか知らない。日本犬の一種だと思って飼い始めたが、大きくなると、耳がだらんと垂れてきて、日本犬じゃなくて雑種らしいことがわかった。
それでも可愛がった。当時の新聞漫画の主人公の名前から「プーサン」と名付けた。
しかし、プーサンは、ひどい皮膚病にかかってしまった。獣医さんはこれは治らないという。あまりに苦しそうなので、安楽死させてもらった。
それ以来、自分ではイヌを飼うのをやめた。そのかわり、よその家のイヌをかわいがることにした。昔はイヌを放し飼いにしている家も多かったから、少し可愛がると私の家に朝から夕方までいてくれる。勝手に名前を付けて可愛がった。いま考えると、悪いことをしたと思っている。
大人になってからは、イヌと遊ぶ機会はなくなった。
仙台と浜松に住んで、およそ20年ぶりに東京に戻って、池尻大橋に住んだ。そこで驚いたのは、見たこともない種類のイヌのいることだった。地方から、東京の、それも”お洒落な”場所に来たのだから、あたりまえかもしれないが、カルチャーショックだった。
近くの公園に行くと、イヌを連れて散歩している人に出会う。毛を刈り込んだプードルとか、ちっぽけなチワワとか、初めて見るイヌばかりだった。なかでも、いちばん印象に残ったのは、シベリアンハスキーだった。あの青い目にはびっくりした。
やっぱり、小さくて、おもちゃのようなイヌよりも、大きいイヌの方がかっこういい。
知人で、グレートデーンを飼っている人がいた。「大きいイヌが甘えてくれると可愛いんだ」とその人は言っていた。その人の奥さんを見ると、とても大柄の人であった。なるほど。