車いすに乗ったおじいさんが介護士さんに付き添われて食堂にやってきた。
 食堂には、4人用のテーブルと2人用のテーブルが混在している。席は決まってなく、自由にどこでも座ることができる。言い換えると、早い者勝ちだ。
 「どこに座りますか」
と介護士さんがきいた。
 「時計の見えるところがいい。」
とおじいさんが答えた。そして車いすを押してもらって、時計の下の4人用のテーブルに座った。
 次の時も同じだった。その次の時も。
 あのおじいさんは、若いころは忙しい生活をしていたのだろうな。だから時計から離れられないのだろうなと私は想像した。
 入居者の人が、どんな過去を持っているのか、私は全く知らない。もしかして本人以外は誰も知らないのかもしれない。入居の申請をするときにも、過去の職業や地位などを問われることは全くなかった。年金の額や預金の額は記入する欄があったけれど。老人ホームとは、人生をリセットできる場所なのかな。
 ある日、いつものようにおじいさんが車いすでやってきた。その日は、あいにく時計の下の席に誰かが座っていた。
 ああ、どうするのかな。相席になるのかな。それとも・・・よく、老人ホームでは、短気な老人が癇癪をおこして、トラブルを起こすと聞いたことがある。もしや、と私は緊張した。
 しかし、あの老人は別の席に座って、トラブルは起きなかった。よかった。
 私の感想。①老人ホームでは昔の職業や地位は問題でない。問題なのはお金だけ。②老人ホームのトラブルなんて週刊誌がオーバーに書いているのかな。

投稿者

コラーゲン博士

85歳の老人ホーム入居者 若いころは大学でコラーゲンの研究を行っていた

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