老人ホーム「ポムポム川の辺」に入居したころは、晩御飯はホームの食事を食べていた。しかし、10日ぐらいでやめてしまった。今は、毎日、かみさんが、ミニキッチンで、つくってくれる晩御飯を食べている。
ホームの晩御飯がいやになった理由はいろいろある。時間に縛られるのはいやだし、晩酌ができないことも困る。そして、肉らしい肉、魚らしい魚を食べられないのも、イヤになった大きな理由だった。
ホームの食事に出てくる魚といえば、すり身で作ったさつま揚げのようなものだし、肉料理といえば、ミンチしたものばかりだ。
もちろん、その理由は理解できる。みんな老人で、歯が悪かったり、嚥下力が低下していたりする。のどを詰まらせたら、大変だ。大人数分用意するため、調理のしやすさもあるだろう。経費のこともあるよね。栄養バランスを考え、摂取カロリーを計算して、献立をつくっているのだと思う。
でも、これでは、物足りない。肉なら、大きなステーキとはいわないが、肉らしい肉をたべたくなる。「にくらしい料理を食べたい」といったのかみさんである。かみさんにしては、珍しくジョークをいった。 とはいっても、私も、かみさんも、たくさん肉を食べる方ではない。ささやかな量でいいのである。
肉好きといえば、むかし共同研究をしたH先生は、大変肉好きだった。内科の先生だったが、とにかく肉が好きで、しかも、うるさい。まずステーキは、自分でナイフで切りつつ食べないと気が済まない。目の前の鉄板で焼いて、切って出してくれる店があるが、それはダメである。
脂身が大好き。私が脂身を残したら怒られた。「ここが一番おいしいのだ!」 量もすごい。どのくらいの重量だったのだろうか、大きなステーキを、ぺろり。私は、店で一番小さいのでさえ持て余した。
H先生も、もう亡くなってしまった。