フレデリック・ホプキンス博士はイギリスの生化学者である。トリプトファンの発見者で、また事実上のビタミンの発見者だ。1929年にはノーベル賞を受賞した。
ホプキンス博士に関心を持ったのは、昔「朝からキャビアを」という本を読んだからである。ただし、この本は、ホプキンスの伝記の本ではない。セント・ジェルジの伝記である。
セント・ジェルジはハンガリーの生化学者・生理化学者で、ビタミンCの研究でノーベル賞を受賞した。筋肉の研究でも知られている。とてもエキセントリックな人だったらしい。高齢になっても、野心的に活動したさまが、伝記に描かれている。
これも大昔に、セント・ジェルジの書いた本を読んだことがある。「生化学や分子生物学者の研究法はダメだ。これでは生命の本質には迫れない。発電機を研究するのに、バラバラにして、電線やネジくぎなどの部品を研究しているようなものだ。これじゃ、本質を理解できない。電気の流れを理解しなければ、発電機を理解できない」というようなことが書いてあって、「そうかあ」と感心したのを覚えている。
ホプキンスは、セント・ジェルジの直接の先生ではないが、セント・ジョルジの研究を理解し、サポートした。とても謙虚で、控えめな人だった。他人のいうことにノーといえない。だから人と会うのを嫌がって、人が来る気配があると、裏口から逃げ出す準備をしていた。
彼の業績リストは短い。弟子たちの論文に自分の名前を載せなかったからだ。
すごい業績をあげたのに、自分の仕事は不十分だと考えていた。「大したことは出来ていない」とつぶやいていた3日後に、ノーベル賞受賞の知らせが来たという。
ああ、こんな学者になりたい。いや、なりたかったなあ。
天の声「なれるはずがない」