昔、私は浜松に住んでいた。浜松はうなぎで有名である。実際、街中には、うなぎ屋さんがたくさんあった。
「うな重」にはいろいろな流儀、作り方があるらしい。浜松は関東と関西の文化の境界で、両方の文化が混在しているからだというのだが、私にはどれがどっちだか、よくわからなかった。とにかくいろいろな店があった。うなぎがご飯の中に隠れているのもあったし、上と中の2層になっている店もあった。
注文すると、すごく待たされる店があった。注文があってからうなぎを裂き始めるからだと、誰かが冗談交じりに言った。でも、待たされるのがいいのだという人もいた。待ってる間に、一杯やってればいいし、かば焼きへの期待がどんどん膨らんでいくのがいいのだそうだ。私はあんまり待たされるのはイヤだ。
大学は町のはずれにつくられた。だから、大学の近くには食事をする店があまりない。大学ができてからほどなく、うなぎ屋が一軒開業した。みんなそこをよく利用した。「あそこでは、絶対にひとの悪口を言ってはいけない。誰か大学の関係者が必ずいるから」という話だった。
えらいお客さんが見えたときには、市の中心部にある、少し上等な店に行った。うなぎ料理のコースというのがあった。うなぎの白焼きから始まって、きも焼きとか、骨の焼いたのとか、うまきなどが出てくる。しめはうな重。うな重が出るころは、おなかがいっぱいになっていた。
うなぎのかば焼きの持ち帰りの店があった。浜松の市街から離れたところにある、小さな店である。一度、金沢の大学の先生にさしあげたら、おいしいおいしいと気に入ってくれた。そして、又ほしいと頼まれた。
しかし、この店は中国産のうなぎを、国産と偽って売っていたのだ。後にそれがバレて、摘発された。地方新聞に記事が出たけれど、金沢の先生には黙っていた。
この頃はうなぎはめちゃくちゃ高くなってしまった。食べる機会はなかなかない。