老人ホーム「ポムポム川の辺」では長い廊下を挟んで部屋がずらりと並んでいる。各部屋の入口には入居者の姓が書いてある。これを眺めていると、日本人の姓にはいろいろあるんだなあと思う。
今のことは知らないが、私が子供の頃は、学校のクラスの出席簿はアイウエオ順であった。先生が誰かを指名するときには、出席簿の順にあてることが多い。だから、相川くんとか青木さんとかはいつも真っ先に指名されてしまう。たまにはへそ曲がりの先生がいて、名簿の反対側から指名した。今度は渡辺さんとか和田くんが災難。
先生が簡単に読めない難しい苗字がいろいろある。そうすると先生は困って、生徒に何と読むのかきく。私の同級生に荷見くんという子がいた。荷見はハスミと読むのだが、先生はわからない。「ニミ」と呼んだ。荷見くんは「先生、ハスミです」と訂正した。すると先生は聞き間違えた。「ああ、ヤスミか」。
菊名とか岩内とかいう苗字も困るだろうな。
「君の名は?」「キクナ」
「あなたの名前は?」「イワナイ」
本当にこんな苗字の人がいるかどうかは知らないが、地名にはある。
昔、私が勤めていた大学の卒業式での話である。単科の医科大学なので卒業生は100名ぐらい。事務の人がひとりひとり、名前を読み上げた。
卒業生になかに、小山田さんという人がいた。とても体格の良い女性であった。事務の人が「オヤマダ」さんというべきところを、まちがって「オヤダマ」さんといってしまった。
私は笑いをこらえるのに必死だった。だって、あの女子学生は体格もよく、風格があり、まさに「親玉」と呼ぶにふさわしかったからだ。
いまでも、アノ時のことを思い出すと、ニヤニヤしてしまう。
天の声「くだらないこと言ってないで、夫婦別姓の問題でも考えなさい」