「ポムポム川の辺」の私たちの部屋にはミニキッチンが付いていて、簡単なクッキングができるようになっている。
小さな調理台と小さな流し、それにアイエイチ調理器がついている。これは火力は甚だ弱い。
あとは息子たちが用意してくれた電子レンジがあるだけ。ガスは使えない。
これらを使って、かみさんは、「あんたのため」と恩着せがましくいいながら、昼食と夕食を作ってくれる。感謝してますよ。
したがってつくれる料理は限られてしまう。たとえば焼き魚は出来ない。焼肉も難しい。たとえばアジの干物は電子レンジでチンして、焦げ目のないまま食べている。
料理の際に、食物を煮たり、焼いたり、揚げたりすると色が付き、香りができる。この色や香りは、食欲をそそる重要な因子である。
この現象を研究したのはフランスのマヤールという化学者だ。今から100年以上も前に、彼はアミノ基を持った化合物と糖を混ぜて加熱すると褐色に着色することを見出し、これが食品の製造や調理と深い関係があることを指摘した。
それ以来、この反応はメイラード反応(マヤールを英語読みにした)と呼ばれている。この反応はとても複雑で、多種類の物質が出来てくるし、条件によって生成物が違う。
やがて、この反応が生体の中でも起きていることがわかっってきた。ただし生体の中の温度は37度ぐらいだから、反応速度はお料理に比べると遅い。長い時間をかけて、ゆっくり進行する。
生体内のメイラード反応はグリケーションとよばれているのだが、これが老化や糖尿病と深い関係にあることがわかって、近年大いに注目を集めるようになった。
さらに研究が進んで、メイラード反応あるいはグリケーションの生成物になかには、体にとって良くない物質があることがわかってきた。特にオーブンで高温に加熱すると、有害物質がたくさんできるという。
そこで、今日の話の結論は、かみさんが老人ホームのミニキッチンでつくってくれる料理は、メイラード反応があまり起こらず、おいしそうもないが、体にはいいんじゃないかということなのだ。
我ながら乱暴な結論だと思っている。すみません。