年末になると、街にベートーヴェン作曲・交響曲第九番「合唱付き」が流れる。演奏会も催される。なぜか知らないが、日本人はこの曲が大好きなようだ。この曲が作曲されたのは1824年というから、およそ200年も前につくられた。
昔、大塚製薬に招待されて、徳島に行ったことがある。セミナーをした後、徳島の観光に連れて行ってもらった。徳島市から近くの鳴門に行き、船に乗って渦潮を見た。
その時、鳴門はベートーヴェンの第九交響曲が、日本ではじめて演奏された場所だと教えてもらった。へえ、そうなのかと思った。
第一次世界大戦の時、日本は青島(チンタオ)で、ドイツ軍と戦って勝利した。そして700人のドイツ兵を捕虜にして、日本に連れ帰った。そのため捕虜の収容所がいくつかつくられ、その一つが、鳴門にあった。
鳴門の捕虜収容所の所長さんは、思いやりのある人で、捕虜の音楽活動を許した。そこで、ベートーヴェンの第九交響曲が演奏されたというのである。1918年6月1日のこと、いまから100年以上前の話だ。これが日本で初めての第九の演奏であった。もっとも、捕虜は男性だけなので、合唱は、男性だけ。そのようにつくり変えたそうである。
遠い異国に捕虜として連れてこられて、ずいぶんつらかったろう。ベートーヴェンの第九は、きっとその人たちを励まし、慰めたことだと思う。
あれから100年、いま第九は、日本人を元気づけてくれている。