生物学者の丸山工作博士は、著書「筋肉のなぞ」の中で、次のように述べている。
「殿村、大沢、江橋の3研究室は、殿村工場、大沢牧場、江橋精肉店とニックネームがつけられている。殿村工場では、工場長の企画と指図に従って製品が整然と生産される。やがて課長クラスは独立して、それぞれ町工場をつくる。大沢牧場では柵に 囲まれた広い草原で仔馬たちがのびのび育つ。成長した駿馬たちは自由を求めて柵外に去り、自らのテリトリーを形成する。江橋精肉店では若者は店主夫妻の監督下で徒弟奉公したのち、暖簾を分けてもらって分店を経営する。」
昔、日本の筋肉研究には御三家と称される3人の研究者がいた。殿村雄治博士は大阪大学で、江橋節郎博士は東京大学で、大沢文夫博士は名古屋大学で研究をされ、世界的に著名であった。そして、この3人の弟子の育て方が、対照的であったというのだ。
これを読んで、まず丸山先生の見方は、さすが面白いなあと感心した。それから、自分が若者の立場だったら、どこに入門したいか考えた。
そりゃ、大沢牧場でしょう。研究は、自由勝手に、のびのびやりたい。しかし、脱落してしまいそうだけれど。
実際、大沢研究室からは、たくさんの優れた生物物理学者が出ている。この功績で、大沢博士は、ネイチャー・メンター賞を受賞した。
しかし、「牧場」が成り立つためには、お金と心の「ゆとり」が必要である。これからの世の中が、基礎研究に、そんなゆとりを許すかどうかが問題だ。