大昔、浜松の医大に勤めていた時の話である。夏のある晩、同僚のIさんから電話があった。「月下美人が咲きそうだから、見にいらっしゃい」
 私は、それまで月下美人というものを知らなかった。しかし「美人」がみられるというので、Iさんのお宅に出かけていった。かみさんも一緒だった。
 月下美人というのは、サボテンの仲間の植物であった。夏の夜に、純白の大きな花が咲く。8時ころ咲きはじめるが、たいていは4時間ぐらいでしぼんでしまうそうだ。美人薄命だ。
 私たちが着いたころ、月下美人は咲き始めた。花のいい香りがした。姿といい、香りといい、その名前といい、とてもロマンティックな花だ。大柄だから、日本というより異国の美人かな。いや、一夜限りのはかなさは、日本的かななどと思った。
 辞書を引くと、英語では”A queen of the night” というのだそうだ。西洋人には、はかない美人というより、堂々とした女王様に見えるのかな。
 原種は、メキシコや南米に自生しているとのこと。やっぱり、異国情緒たっぷりの花だ。
 しかし、お酒を飲みだすと、花のことが頭から消えてしまい、いつものくだらない話になった。
 月下美人と似た言葉で、「月下氷人」という言葉がある。これは、男女の仲をとりもつひと、お仲人のことだそうだ。「月下老人」と「氷人」との合成語だそうである。「月下老人」は、中国の故事に由来していて、「男女の仲をとりもつ人」という意味だし、氷人も、中国の別の故事に由来し、「男女の仲をとりもつ人」という意味だそうだ。氷というから冷たい印象だが、「氷が解けるころに媒酌」ということだそうである。
 そんな本来の意味はさておいて、「月下老人」とは、なんだかミステリアスで、格好いい。そうだ、老人の私が月夜に散歩すれば、「月下老人」だ。
 天の声「いや、月下奇人だ」

投稿者

コラーゲン博士

85歳の老人ホーム入居者 若いころは大学でコラーゲンの研究を行っていた

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