私たちの隣の部屋に、おじいさんとおばあさんが暮らしている。
確かではないが、私たちよりも年は上だろう。二人とも要介護者らしい。
部屋からエレベーターまでは、かなり長い廊下を歩いていかなければならないのだが、それがお二人には大変である。
おばあさんは片手で杖をつき、もう一方の手で手すりにつかまって、ゆっくりゆっくり歩いていく。おじいさんの方はもっと辛そうだ。一歩歩くたびに、「ウォー」と叫び声をあげる。
ときどき、介護士さんが一緒に歩く。「車いすに乗せてあげればいいのに」とか、「部屋に食事を持ってきてあげればいいのに」とか、かみさんが言うが、多分歩くこともリハビリの一つなのではないかと思う。
おばあさんは耳が遠い。ホームのアナウンスがよくわからない。
眼もよくないらしい。鍵をカギ穴に差し込むのがなかなかうまくいかない。手伝ってあげたことがある。
しかし、おばあさんはとても明るい。人懐っこくて、私にも話しかけてくる。
今は私は何とか一人で歩けるし、眼も耳もまあまあ機能している。しかし、いつまでも大丈夫というわけにはいかない。そのうち、老化がもっと進んで、おばあさんのような状態になる日が来るだろう。
そうなった時、あのおばあさんのように、明るく生きられるだろうか。とても自信がない。