私の身なりはパッとしない。それは自分でもわかっている。
昔、つまり現役の頃、友人たちから「君はどうしてそんなみすぼらしい格好をしているの?」と言われたことが何度かある。大きなお世話だと思ったが、黙って「えへへ」と笑っておいた。
私が子供の時、明治生まれの母に「男は見た目を気にしてはいけない。お洒落なんてするものではない」と教えられたように記憶している。そのせいで私は身なりに気配りができないのだと思う。
しかし、私のすぐ上の兄はお洒落だったから、母の教えのせいではないかもしれない。
かみさんはお洒落が好きだ。そのついでだろうが、私のものをいろいろ買ってきてくれた。しかし、それらを私はうまく使えず、いつも同じ服を着て、同じネクタイをしていた。
もちろん、すごくお洒落っぽいものはもっていない。私のことを「みすぼらしい」といった友人は、ベルトはイタリアのXXX製、靴はYYYのものと自慢していたが、そんなものは持ってはいない。
唯一お洒落っぽいのは、別の友人がくれたルイ・ヴィトンの眼鏡ケースである。それを持っていたら、あんなに小さいものでも目ざとく見つけて、ほめてくれた人がいたのには驚いた。
さて、本論に入ろう。老人ホームでの身だしなみについてである。老人ホームの入居者たちは、みんな年寄りで、外出もしない。他人の目を気にする必要がない。だから、年中ふだん着で、パジャマに毛の生えたような服装をしている・・それでいいのだと思っていた。
ところが、介護士さんが見ているのだ。じっと観察している。
それは認知症の心配をしているからだ。
認知症の症状の一つは、いままで服装に気配りしていた人、お洒落だった人が、気配りができず、お洒落もしなくなることだそうだ。同じ服をずうっと着ているようになると危険信号だという。
危ない、危ない。私はずっと同じ服だ。昔からだとは知らない介護士さんにマークされているかもしれない。気を付けないと。