30年位前に、私は認知症の勉強をしたことがある。
認知症の中でも代表的なのは、アルツハイマー病だが、この病気になると脳の細胞(神経細胞)がどんどん死滅してしまう。
なぜ神経細胞が死ぬのか?
アルツハイマー病の人の脳を調べると、老人斑という斑点や異常な繊維状の構造体がみられる。どちらもある種のタンパク質が固まってできたものらしい。そして、この塊が神経細胞にとっては有毒だというのだ。
タンパク質が固まって不溶性の構造体を作るというのは、私にとってファミリアーなことだった。というのは私は長くコラーゲンとその関連タンパク質を研究テーマにしていたからである。
コラーゲンはヒトの皮膚や骨や腱などにたくさんあって、不溶性の構造体を作っている。それはコラーゲンの分子が集まってできたものだが、単に集まっただけでなく、分子と分子の間に架橋ができて、しっかりした構造体をつくりあげる。この架橋形成は体にとって必要なものだ。
一方では、老化に伴って別種の架橋ができて、コラーゲンの繊維がしなやかさを失ってしまう。これは困る。この架橋は体にとって有害な存在である。
これらの架橋の正体が私のメインの研究テーマだった。
私は考えた。アルツハイマー病の脳にできるタンパク質の不溶性の塊生成の謎に、コラーゲンの架橋の知識が生かせるのではないか。
そこで私はアメリカの学者に手紙を書いた。私の考えを説明し、アルツハイマー病の脳のタンパク質の塊のサンプルを分析してみたいから、くれないかと頼んだ。すぐに返事が来て、「まだ純粋に取り出せていないからダメだ。」
残念。