かみさんは、朝食後に薬を飲む。高血圧の薬に胃腸の薬、それに物忘れ防止の薬だ。私はなにも飲まない。
この頃の薬はたいてい錠剤で、包装シートに入っている。プラスティックとアルミで挟んだシート状のもので、プラの部分を強く押すとアルミがやぶけて、中の錠剤が1錠ずつ取り出せる。
便利にできているのだが、困ったこともおこる。かみさんはシートをはさみで切って、1錠ずつバラシている。シートのままだと、破いたところがそのまま残るのがいやなのだそうだ。しかし、ばらばらにすると、往々にして何の薬だったかわからなくなってしまう。
それから、その薬を飲んだかどうかわからなくなることも多い。そうなるとゴミ箱を探して、小さな薬のカスがあるかどうか探すことになる。
そしてどういうわけか、物忘れの薬を飲み忘れることが多い。胃腸の状態は自覚症状があるから、胃腸薬を飲むのを忘れることはあまりない。血圧の薬も、血圧を測定するときには、思い出す。
しかし、物忘れは、自覚症状がないのだ。
物忘れの薬という名前もいけないかな。睡眠薬は「眠るため」の薬である。では物忘れの薬はどうだ。「物忘れするため」の薬か?
もっとも、物忘れの薬という名前は私たちが勝手に呼んでいるだけで、本当は「物忘れ防止の薬」だ。いや、正式には難しいカタカナの名前がある。
老人ホームでは、依頼すれば、介護士さんが朝食時に薬をもってきてくれる。これなら忘れないけれど、かみさんはイヤだという。
でも、こんな悩みはたいしたことではない。世の中には薬を飲まないと命にかかわるような大変な人がいっぱいる。
私たちの緊張感が足りないだけだ。それを治すにはどんな薬を飲めばいいのかな。