老人ホーム「ポムポム川の辺」には、いろいろな場所に緊急時の呼び出しボタン、いわゆる「ナースコール」がついている。オレンジ色の長い紐の先に、オレンジ色の押しボタンがついている。私のベッドの脇にもあるが、恐ろしくてさわる気がしない。
それが、昨日の早朝に、このボタンを押してしまった。
もちろん、かみさんや私が、急病になったわけでも、怪我したわけでもはない。
朝早く目覚めた私は、5時半ごろに廊下に出た。そうしたら、一人のおじいさんが、手すりにつかまって、よろよろ歩いていたのだが、次の瞬間、廊下に床に崩れるように倒れてしまった。
私はびっくりして駆け寄った。「大丈夫ですか?」と声をかけると、口の中でもぞもぞ言うだけ。「介護士さんを呼びますか?」というと、うなずいた。
そこで、私は自分の部屋に戻って、オレンジ色のボタンを押した。ところが返事がない。これは困った。緊急事態なのに。
何分か押したままにしていたら、ようやく「どうしました?」という返事があった。そこで事情を説明した。介護士さんは、ちょっと間をおいてから、「わかりました。行きます」と言った。
すぐに来てくれると思ったら、なかなか来てくれない。別のやりかけの仕事があったようだ。
数分がたってから、ようやく来てくれた。
「ああ、XXさんね」と、おじいさんの顔を見て、介護士さんは言った。「さあ立ち上がってちょうだい!」
私は介護士さんの対応に、ちょっとびっくりした。
「XXさんは常習犯なんです。いつも、ウロウロ、うろつくんだから」と介護士さんは私に説明した。私も納得した。
というわけで一件落着となったが、ナースコールを押してから、介護士さんが駆けつけてくれるまでに、時間が随分かかったのが気になった。あの介護士さんはベストを尽くしてくれたのだと思うけれど。
緊急時にすぐに来てくれることは、老人ホームのセールスポイントのはずだ。所長さん、緊急時の態勢をチェックしてほしい。
私も、ナースコールを押す事態にならないように気を付けよう。もう2度と押したくない。