いろいろ苦労の末に、何とか実験は完了した。結果は、空気の酸素がヒドロキシプロリンの水酸基に取り込まれる、すなわちプロリンの水酸化はオキシゲナーゼ機構で行われることを示していた。いま思い出しても大変な実験だったが、何とかやりとげた。
そこで私たちは学会で報告し、論文を書いて発表することにした。まず酵素化学シンポジウムという学会で発表した。
しかし、あまり反響はなかった。酵素研究者にはコラーゲンに興味を持つ人は少なかったのだろう。水酸化酵素も取り出せてないし・・・
ところが、しばらくして、「学会予稿集を要請によって英語に翻訳したからお知らせする」という手紙が来て、びっくりした。外国の研究者が興味を持ったらしい。
私たちは急いで英文の論文を書いて、イギリスの生化学誌に投稿し、採択された。
その数か月後、私たちの論文とほとんど同じ内容の、アメリカの研究者による論文が、生化学の速報誌に掲載された。私たちとは独立に同じような研究を進めていた人たちがいたのだ。
当時すでに著名だったユーデンフレンド博士と当時は若手、後に大御所になるプロコップ博士である。
この実験には苦労したけれど、結果は大成功だった。いや出来過ぎだった。研究者の「運」をこれで使い果たしてしまった気がしている。ああああ。