年寄りの私は、朝は早く目が覚めてしまう。目が覚めると寝ていられず、起きてしまう。そして、このブログを書き始める。
 ある朝、6時ごろだ。突然ベルが鳴りだした。もちろん私の部屋のものではない。廊下に出てみると、二つ先の部屋から聞こえてくることがわかった。
 火事でも起きたのかと緊張したが、火災報知器のベルほど大きな音ではない。しかし、かなり大きな音だ。それがずーとなり続けている。
 どうやら、目覚まし時計の音のようだ。
 その部屋の住人がどんな人かは私は知らない。
 20分以上も鳴りつづけているので、私は心配になった。とうとう、宿直の介護士さんに連絡した。
まだ若くて、体格に良い介護士さんが駆けつけてくれた。
 部屋のドアをトントンとノックした。返事がない。名前を呼んでも返事がない。
 「部屋に入ってみよう」と介護士さん。
 鍵をジャラジャラ取り出して開けた。
 「怖いなあ」 
 そういいながら、恐る恐る覗き込んだ。私じゃない。介護士さんが「怖いなあ」といったのだ。
 部屋には女性がいて、ぐっすり眠っていたそうだ。よく眠っていたので目覚ましが鳴ったのには、気が付かなかったとのこと。耳も少し遠いらしい。
 でも、老人ホームの住人がなぜ目覚まし時計をセットしたのかな。仕事に行くわけでなし。
 次の朝にもう一度ベルが鳴ればミステリーみたいで面白かったのだけれど、それはなかった。
 しかし、私は老人ホーム「ポムポム川の辺」は、ミステリーの舞台としては、なかなかのものだと思う。静寂な雰囲気。いろいろな過去を持つ入居者たち。長い廊下。両サイドには鍵かかる部屋がずらり。さらに建物全体も出入りが厳重にチェックされている。ここで殺人が起これば2重の密室ができる可能性がある。
 日本の家屋は開放的で、密室殺人の舞台には不適当だと昔から言われてきた。まあ、最近は鍵のしっかりかかる住宅がふえてきたけれど。
 「ポムポム川の辺」を舞台にしてミステリーを書いてみたい。でもそんなことをしたら、所長さんは怒って、私たちを追い出すだろうなあ。