川の辺を歩いていたら、シオカラトンボが飛んでいるのを見つけた。夏が来た。夏といえば、子供のころは昆虫採集に夢中だった。
男の子なら、たいてい昆虫採集の経験があると思う。もちろん、単なる「虫取り」から、立派な標本をつくる「昆虫採集」の子まで、レベルはいろいろだ。
私は子供のころ、小石川に住んでいたが、まだいろいろな昆虫を採ることができた。神社の境内、お寺の墓地、それに草の生えた空き地などを、捕虫網を持って昆虫を探した。カブトムシやクワガタも好きだったけれど、いちばん好きなのはトンボだった。
トンボはとても美しい。なかでも、オニヤンマの眼の緑色は、最高の美しさだ。
夕方になると、ギンヤンマがすいすいと飛んでいる。ギンヤンマのメスを、近所の子は「チャン」と呼んでいた。理由はわからない。シオカラトンボのメスは、ムギワラトンボといった。これは、その色から納得できる。
カブトムシをサイカチ、キチョウをオコウコチョウチョと呼ぶ子がいた。
もちろん、昆虫採集少年は、こんな俗称を使わない。
私はそこそこの昆虫採集少年だったが、中学生ぐらいまでで、やめてしまった。
たいていの子は、大人になる前に昆虫採集を卒業してしまうが、大人になってもやっている人がいる。私が大学生の時、研究室の助手のK先生は、カミキリムシを集めていた。新種をいくつも発見したといっていた。中学と高校で同級だったF君は、チョウの収集家で、立派な図鑑を出版した。
農学部に教員としていたころ、研究室に卒論のために入ってきたN君は、昆虫の収集家であるし、昆虫について博識だった。やがて、テレビの昆虫番組で優勝し、今では「昆虫王」と名乗っている。あれくらいになれば大したものだなあ。