「ポムポム川の辺」の出入りは厳重にチェックされている。玄関のドアはなかなか開けてもらえない。
入居者も外出するときには、外出届を出さなければならない。玄関の脇に小さな用紙とボールペンが置いてあって、日時、入居者の部屋番号、行き先を記入する。たとえ近所のコンビニに行って、5分で帰ってくるとしても、届を出さなければならない。
結構面倒くさい。受付に座っている介護士さんか事務職員のお姉さんが、笑顔で「いってらっしゃい」と言って送り出してくれるのが救いだけれど。
帰ってくると、玄関のチャイムを押す。「はーい」と声が返ってくるので、「ただいま。帰りました」と報告する。そうすると「お帰りなさい」といって、ドアを開けてくれる。
まずアルコールで手、指を消毒し、小箱から自分が提出した外出届を取り出して、帰宅時間を記入する。これも面倒くさい。
「ポムポム川の辺」は最新式、現代的な設備をそろえているのに、外出届だけは古くさいというか、アナログというところが、面白い。
「入居者に磁気カードかなんか持たせて・・・」とかみさんに言ったら、「老人には無理。きっと失くしてしまう」と答えが返ってきた。そうかもしれない。
ある日、夜の8時ごろ、介護士さんが私たちの部屋にやってきた。私たちの顔を見て「ああ帰ってきているんですね。外出届に帰宅と記入されていないものだから。」
ついうっかり、帰宅の記入を忘れていたのだ。
「すみません」と私たちは平謝りに謝った。
「すみません」。私たちは謝った。