東京には、地下鉄の路線がいくつもある。とても複雑で、よくわからない。
私は、名前の付け方にも問題があるのではないかと思う。なぜなら、東西線、南北線、副都心線はいいとして、銀座線、丸ノ内線、日比谷線、有楽町線、半蔵門線など、みんな都心の地名の名前がついている。銀座も丸の内も有楽町も日比谷も、みんな近所だ。要するに、郊外から都心に向かう線だということがわかるだけである。これでは、何の情報にもならない。
むかしは、こんなに複雑ではなかった。いちばん最初にできたのは、銀座線で、1927年のことだそうだ。これは私が生まれる前だから、建設の様子など、もちろん知らない。
2番目の丸ノ内線が建設されたころのことは、よく覚えている。私が高校生のころで、通っていた高校のそばを通ることになったからだ。都電の走る道路の地下が工事現場になっていて、敷きつめられた鉄板の隙間から、電灯の明かりがみえていたのをおぼえている。
それからどんどん新しい線がつくられていった。最近のものほど深い地下を通っている。だから、駅では、長い長いエスカレーターに乗らねばならない。あれは怖い。とくに下るときは怖い。
地下鉄の車両に冷房がつけられたのは、そんなに昔のことではない。若い人は不思議に思うだろうが、地下鉄には冷房がなかった。乗り入れている私鉄には冷房がついているのにである。
たとえば、東急田園都市線で、都心に向かうとする。渋谷までは冷房が効いている。ところが渋谷を過ぎると、冷房は止められてしまう。車両には冷房の設備が設置されているのに、使わないのだ。そこで、乗客は、大急ぎで窓を開けていた。変なことだった。
なんやかんやいっても、東京の地下鉄は、きれいで、清潔だ。大昔に乗っていた、ニューヨークの地下鉄に較べればね。
老人ホームに入って4か月、もちろんその間、地下鉄には乗っていない。いや、かなり前から乗っていない。もう乗らないだろうなあ。