東京近郊のある市で、井戸のある場所の地図をつくったそうである。災害時、水道が使えないときの備えだ。しかし、この地図の公表のしかたが難しい。井戸があるというのは、個人情報だ。簡単に公表は出来ない。しかし、みんなが知らないと、災害時に役に立たない。
公表すると、災害時でもないのに、井戸水を飲ましてくださいと、知らない人がやってくる可能性がある。これは迷惑だ。
また、井戸があってもそれが使えるように維持するのは、結構大変らしい。井戸は使わないでいると、涸れてしまうそうである。井戸があっても、使い続ける家はそんなに多くない。井戸地図には、現在使える井戸を表示しなければ意味がない。地図作りは大変なようだ。
昔は、井戸はたくさんあった。いや、もっと昔は、水道がなく井戸しかなかったのだ。ひとつの井戸を、多くの人が使うので、井戸端会議が始まった。
私が浜松の医科大学にいたとき、はじめは公務員宿舎に入っていたのだが、かみさんの希望で家を建てた。お金がないから、大学の近くではあるが水道のない土地に家を建てて、井戸を掘った。
臨床の先生方は、大学のそばの高級分譲地に家を建てる人が多かった。そのような先生の一人が、私の家に井戸水をもらいにやってきた。ウイスキーの水割りをつくるのに、井戸水が欲しいとのことだった。
我が家はぜいたくな水を飲んでいるのだと、笑ってしまった。