コラーゲンの分子は、3重らせん構造を持っている。温度が高くなると、3重らせん構造はほどけてしまう。この温度は、変性温度と呼ばれていて、コラーゲンの種類によってきまっている。ネズミ、カエル、マグロ、タラなどのコラーゲンをくらべると、ヒドロキシプロリンが多いコラーゲンほど、変性温度が高い。それゆえ、ヒドロキシプロリンは、3重らせん構造を安定化しているのだろうと考えられた。
ところが、ハリントン博士は、これらの動物のコラーゲンでは、ヒドロキシプロリンの多いものはプロリンも多いことを指摘した。つまり、ヒドロキシプロリンが3重らせんの安定化に寄与していると安易に結論付けることは出来ない。
そこで、ミミズとカイチュウのコラーゲンの登場となる。ヒドロキシプロリンが多くプロリンの少ないミミズのコラーゲンと、ヒドロキシプロリンが少なくプロリンの多いカイチュウのコラーゲンのデータを加えたらどうなるか?
コラーゲンの変性温度は、プロリンとヒドロキシプロリンの総量と相関関係にあることが示された。
私はこの研究にとても感心した。しかし、そうなると、ヒドロキシプロリンの存在意義はなんだろう。
低い温度で、コラーゲンの線維にタンパク質分解酵素を作用させると、3重らせんがこわれることなく、溶けだしてくる。その溶けやすさを、ミミズ、カイチュウのコラーゲンを含めて比較してみた。ちょっとトリッキーな操作をしたのだけれど、ヒドロキシプロリンの多いものほど、タンパク質分解作用を受けにくいことがわかった。そこで、ヒドロキシプロリンは、コラーゲン線維の安定化に寄与しているのではないかという仮説を発表した。
しかし、その後、コラーゲンのような3重らせんを持つペプチドが人工的に合成できるようになった。そして、ヒドロキシプロリンが存在すると、3重らせんが安定化されることが、はっきり示された。これは疑う余地はない。
したがって、ハリントン博士の説は間違いであることがわかった。私の仮説はというと、多分消えてしまっている。