ミミズとカイチュウのキューティクルの主成分はコラーゲンだが、とても変わったコラーゲンであることが知られている。どのように変わっているのかというと、構成するアミノ酸が、ふつうのコラーゲンと違う。
一般に、コラーゲンの構成アミノ酸には、他のタンパク質には見られない特徴がある。まず、グリシンが多く、33%を占める。プロリンとヒドロキシプロリンも多い。この二つは、環状の構造を持っている点で、他のアミノ酸と違う。これらの存在は、タンパク質の立体構造に大きな影響を与えることが知られている。
ヒドロキシプロリンは、実際上、コラーゲンにしかない。ほかの一般的なタンパク質にはない。それゆえ、コラーゲンの目印になっている。コラーゲンの量を測るには、ヒドロキシプロリンの量を測って、それからコラーゲン量を推定することが多い。
さらに、ヒドロキシプロリンの特徴は、遺伝子暗号を持っていないことである。タンパク質のアミノ酸の種類は、基本的には、遺伝子DNAの塩基配列で決まる。ひとつのアミノ酸に対して、特定の塩基3っが対応する。これは遺伝暗号と呼ばれている。20種類のアミノ酸は、それぞれの遺伝暗号を持っているのだが、ヒドロキシプロリンには、遺伝暗号がない。
では、コラーゲン中のヒドロキシプロリンは、どのようにして出来るのかというと、ペプチド鎖の中に組み込まれた、特定のプロリンが、酵素の働きによって水酸化されてできる。いわゆる、翻訳後修飾反応によって生成するのである。
ネズミの皮のコラーゲンだと、プロリンは全アミノ酸の11.4%、ヒドロキシプロリンは9.3%である。ところが、ミミズののキューティクルのコラーゲンは、ヒドロキシプロリンが16.5%もあるが、プロリンはわずか0.8%。反対に、カイチュウのキューティクルのコラーゲンは、プロリンが29.1%もあって、ヒドロキシプロリンがわずか1.9%。
すごく変わった組成なのである。これは面白い。そして、そこから、さまざまな研究テーマが生まれてくる。そこは次回で。