老人ホーム「ポムポム川の辺」に入居して気が付いたことは、私の頭髪が随分薄くなってしまったことだ。部屋の洗面台には大きな鏡が付いているので、毎朝見てしまう。昔の家ではこんな鏡がなかったから、気にならなかった。もちろん、もう年だからとあきらめている。
 頭髪が薄かったり、禿げている人はたくさんいる。それゆえ、昔から育毛剤はたくさん売られていた。しかし、昔の育毛剤は、つけても効果はすぐにはあらわれない。ある研究会で、大手の化粧品会社のエライ人が言っていた。
 「それでも根気よくつけていれば効果は出るはずです」
ちなみに、その人の頭髪は薄かった。
 今はもっと効き目のある育毛剤が開発されているだろう。私は勉強不足でよくわからない。
 私が昔勉強した知識では、若い人の禿げは、毛をつくる組織(毛包)の数、つまりは毛髪の本数は減ってないのだそうだ。ただ太くかたい毛が作れず、柔らかくて色素の乏しい毛しかつくれなくなっている。一方、年を取って禿げてくるのは、毛包の数が減ってきてしまうから、つまり毛の本数が減ってくるからだそうだ。だから、育毛剤は年寄りの禿げには効きそうもない。
 大昔、関西のラジオ番組に出たことがある。打ち合わせの時にディレクターさんが言った。
 「差別用語は使わないでください」
そこで、私は「ハゲ」はどうですかときいた。彼はちょっと考えてから答えた。
 「使わないでください。パーソナリティの方、禿げていますから」
  そうだ。思い出したエピソードがある。私の息子のことだ。彼が禿げているわけではない。息子が小さな子供のころ(幼稚園のころかな)、私はおもしろがって、いろいろな言葉を教えた。
 ある日、「ボーイズ ビー アンビシャス」という言葉を教えた。息子はふんふんときいていた。
 それから何日か経ったある日、どこでどう間違ってしまったのか、息子が大きな声で言った。
 「ボーイズ ビー アデランス!」