1974年に私は、仙台から浜松にできた新設の医科大学に移った。新設の大学というのは、設備がない。なにもない。でも、研究は、真似事でもいいから続けたい。
仙台から持ってきたものの中に、カイチュウのクチクラのコラーゲンがあった。遊びのつもりで、加水分解して、ペーパークロマトグラフィをやってみた。これなら、ろ紙さえあればできる。これも遊びのつもりで、紫外線を当ててみた。そうしたら、紫色の蛍光を持つスポットがあった。ニンヒドリンをかけると紫色になる。蛍光を持ったアミノ酸らしい。Rf値から見ると分子量の大きなものだと思われた。
あとで、これはイソトリチロシンという、架橋アミノ酸であることがわかったが、その時は、カイチュウのコラーゲンにあるものなら、哺乳動物のコラーゲンにもあるかと思って、調べた。そうしたら、ウシの腱のコラーゲンの加水分解物には、イソトリチロシンはないけれども、別の蛍光スポットが見つかった。これがピリジノリンだった。
私は、それまで、タンパク質や酵素の研究をしてきたので、アミノ酸の、それも化学構造を研究するなんてことは経験がない。どうすればいいのかわからない。とにかく、コラーゲンの会社(ニッピ)から、ウシの脱灰した骨をたくさんもらい、加水分解して、この蛍光物質をせっせと集めた。
これを持って、大学の同級生で、有機化学者の秋葉欣哉博士のところに相談に行った。持つべきは友達である。NMRとかいうもので、構造を調べてくれた。途中でちょっと間違ったりしたけれど、構造をきめることができ、ピリジノリンと命名した。
そして、骨、軟骨にはあるが皮膚にはないこと、確かにコラーゲンの成熟とともに出来ていくこともわかった。尿中のピリジノリンは骨代謝のマーカーになることなどもわかった。
最近出版された「コラーゲンー基礎から応用」という本の中で、架橋のチャプターを担当されたノースカロライナ大の山内博士が、ピリジノリンの発見を、すごくほめてくださった。あまりほめられたことのない私は、大感激して、そこを、赤い蛍光ペンで派手にマークした。
天の声「まるで子供だな」