皮膚、関節、血管壁などをつくる結合組織は、出来たばかりの時は柔らかく弱い。時間の経過とともに硬く丈夫になる。そしてもっと時間が経過すると老化していく。この変化は、コラーゲンの分子間の架橋の変化によると考えられた。すなわち、まず未熟な架橋ができ、やがて成熟架橋へと変化する。さらに時間が経過すると、老化架橋が出来てくる。
ピリジノリンの発見で成熟のプロセスはわかってきた。しかし、老化架橋がなかなか見つからなかった。
ある日、私たちはヒスチジノアラニンと名付ける架橋を見つけた。ヒスチジンとアラニンが結合した構造をしている。見つかった組織は、人の象牙質か牛のアキレス腱かだったと思う。いずれにせよ、コラーゲンが主体の組織なので、この架橋はコラーゲン架橋と信じてしまった。
大動脈壁などで調べると、ヒスチジノアラニン量は、確かに老化と共に増加する。私はうれしくなった。しかし実はまちがっていた。ヒスチジノアラニンは、コラーゲンには無くて、共存する別の物質、たとえば、リンタンパク質とか、プロテオグリカンのコアタンパク質にあることがわかった。
というわけで、これがコラーゲンの老化架橋だという夢は破れてしまった。しかし興味深い物質である。老化のマーカーになりそうだ。
卒論の女子学生さんの研究テーマに、尿中のヒスチジノアラニンの測定を出した。彼女は、ヒスチジノアラニンを間違えて「コヒツジノアラニン」と呼んだ。「仔羊のアラニン」・・・かわいい!