「ノンちゃん雲に乗る」は石井桃子さんが書いた児童文学作品である。1951年に出版された。
この本は大変すばらしい作品であるし、ベストセラーにもなった有名な作品でもある。映画化もされた。
私はこの本をくりかえし、くりかえし読んだのだが、それには訳がある。
今から60年近く前、私はアメリカに留学に行った。羽田から飛行機に乗るとき、見送りに来てくれていた友人の一人(女性!)が一冊の本をくれた。それが「ノンちゃん雲に乗る」であった。
私は若く、貧乏で、外国へ行くのも、飛行機に乗るのも初めての体験だった。それで、気負っていて、せっかく外国に行くのだから、もう日本語は使うまい、日本語の本なんか持っていくまいと思っていた。
その結果、アメリカについて、最初の一年間は、持っている日本語の本はこの「ノンちゃん雲に乗る」だけだった。日本人の友達は周りには一人もいない。
意気込んできたけれども、やっぱり日本語の活字が恋しくなるものだ。しかし当時は、アメリカの地方都市では、日本語の本なんか売っていない。
そこで「ノンちゃん雲に乗る」をくりかえし読んだ。
この本は素晴らしい本である。読むと、暖かくさわやかな気持ちになる。
ノンちゃんは小さい女の子。ある朝、お母さんとお兄ちゃんが、ノン ちゃんには黙って出かけてしまった。ノンちゃんが大病をした後だったからだが、ノンちゃんは悲しくて泣いて、家をとびだした。そして白いひげのおじいさんと出会う。 ノンちゃんはおじいさんに、自分のこと、家族のことをいろいろと話す・・・
私は大事に「ノンちゃん雲に乗る」をもっていたのだが、老人ホームへの引っ越しの際に、どっかへいってしまった。残念。
「ノンちゃん雲に乗る」のラストも印象的だ。ノンちゃんとお兄ちゃんが大きくなって、太平洋戦争直前の、戦争の足音が聞こえてくる時代が描かれている。
それが、なんだか、いまの日本にオーバーラップしてしまう。もう戦争はいやだ。