ニワトリの卵料理は、最もポピュラーの料理の一つである。私ができる唯一の料理は「いりたまご」、すなわちスクランブルド・エッグだ。オムレツぐらいつくれるようになりたいと思うけれど、挑戦したことはない。とても駄目そう。
昔、学会で研究室の仲間と旅館に泊まった。朝食に卵が出てきた。小さな鉄板や鍋やローソクを燃やすコンロがついていて、自分で好きなように、ゆでたり焼いたりしなさいということだった。面倒なので、生で食べた。
隣の席に、尊敬するO先輩が座っていた。彼は何故かもじもじしている。聞くと、自分で卵を割れないのだという。この時は優越感を感じた。
ニワトリの卵は、大昔実験でよく使った。ニワトリの胚、つまりひなになる前の孵りかけの卵は、コラーゲン合成を研究するとても良い材料だった。ニワトリ胚を得るには、業者から受精卵を買い、ふ卵器に入れて温める。受精卵はふつうの卵のちょうど2倍の値段だった。オスはメスと同じ価値があるんだと笑ってしまった。
卵を孵化させる時には、親鳥は一日2回、卵をひっくり返すという。そうしないと、胚が卵の上部に偏ってしまい、うまく育たない。私は親鳥の役をしに、日曜日でも実験室に通った。
アメリカに留学したときは、「〇日目のニワトリ胚」と注文すると、業者が届けてくれた。親鳥の役をする必要がない。ここにも日米の力の差を感じた。
いまは日本でも「〇日目のニワトリ胚」を注文できるのだろうなあ。