「体の中のタンパク質の3分の1はコラーゲンである」。 これはコラーゲンを紹介するときによく使われる言葉である。いわばコラーゲンの枕詞である。私も何回も使った。
 しかし、本当にそうなのか。その根拠となる論文はあるのか、というといまいち、はっきりしない。特にこれがヒトの体の話となると、あやしい。
 だいぶ昔のことだが、調べてみたことがある。マウスについて、そういう記述のある論文をひとつみつけたが、少し後に同じ著者があれは間違いだったという報告を出していた。
 体の中でコラーゲンが占める割合は、多分動物によって違う。ヒトとマウスでは違うだろう。だから「コラーゲンは体の中にたくさんあるタンパク質である」ぐらいにしておいた方がよさそうである。
 コラーゲンはいろいろな動物の体に存在する。ミミズとカイチュウの皮(キューティクル)には、哺乳動物のそれとはちがった、とても変わったコラーゲンが存在している。
 私は50年以上前にアメリカに留学したのだが、その時、ミミズとカイチュウの奇妙なコラーゲンの合成の様子を研究することになった。放射性アミノ酸をこれらの体に注射し、しばらくしてからキューティクルを採取し分析する。
 ミミズやカイチュウを左手でつかみ、右手で注射器を持って操作する。これはなかなか難しい。私は日本人としてはぜんぜん器用な方じゃないけれど、何とか出来た。しかし、アメリカ人は不器用な人が多くて、うまくできない。二人掛かりでないとダメだった。
 また、キューティクルをうまく採るのも結構むずかしい。特にミミズはむずかしい。すごく薄くて、はがれにくい。
 苦労をしているのを見た隣の研究室の先生(生物物理化学の先生だが)がいった。「君たち、コラーゲンの実験をするなら、なぜゾウかサイを使わないのかね?」

投稿者

コラーゲン博士

85歳の老人ホーム入居者 若いころは大学でコラーゲンの研究を行っていた

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