今日は自慢話をしたい。
サイエンス・アドバンシズという学術雑誌の最新号に、ドイツの学者たちが書いた論文が掲載されているのだが、その論文の中で、文献としてトップに引用されているのが私たちの論文なのである。
こんなことはめったにない。自分の書いた論文は別だけれど。
うれしい。何しろこの雑誌は、あの有名な「サイエンス」の姉妹誌なのである。
その論文はエイチダックに関する論文である。そして、エイチダックを世界で初めて報告したのが、50年前の私たちの論文なのだ。
エイチダックとはなにか。ペキンダックやドナルドダックの仲間ではない。ヒストン・デアセチラーゼ histone deacetylase という酵素の略称”HDAC”である。
そして、エイチダックはエピジェネシスと呼ばれる現象の主役の一つだと近年になって考えられるようになった。
エピジェネシスというのは、遺伝子に働きが、外からの刺激によって、働き方が変わる現象である。食生活などの生活習慣や加齢、ストレスなどが原因で、遺伝子の働きがいろいろ変わることが知られているが、これがエピジェネシスである。
それゆえに、エピジェネシスはさまざまな病気の診断や治療につながる可能性がある。たとえば、がん、認知症、糖尿病などにだ。
エイチダックの働きをうまく制御してやれば、つまり、例えばエイチダックの強力な阻害剤を見つければ、がんが治療できるというので、一時期大変な関心が集まった。実際にその成果として、新しい治療薬として承認されたものもあるらしい。
私たちが50年前に研究したころは、そんなことになるとは夢にも思っていなかった。
エイチダック関連の論文はたくさん出版されている。なんでも、3万報以上という。
これらが私たちの論文を引用してくれていれば、スゴイことになっていたろうが、残念ながらほとんど引用されない。無視されている。50年前のことなので忘れられているのだ。だから、引用してくれている論文を見つけるとうれしい。
あー、自慢話じゃなくて愚痴になってしまった。
ところで、私はそのドイツの先生方の論文をまだきちんと読んでいない。長くて、難しくて、とても読めそうもない。
なぜかって、私は今は隠居した「コラーゲン博士」なんだから、エイチダックの論文を理解するのは無理だ。